紀行
桜花爛漫 黒振袖 | 荒井呉服店別誂え 吉澤友禅 制作譚
私ども荒井呉服店の振袖ラインナップにおいて欠かせない染織工房「吉澤織物」。
新潟県南部に位置する十日町市は一年の半分近くが雪に埋もれる豪雪地帯。そうした地域の気候的特性から古くから麻や絹織物が産業として発展しており、戦後は友禅の技術を用いた染物も取り入れられ、現代では国内屈指の「きもの産地」となっています。
そんな染織の街・十日町において正統派古典文様を主たる作風に掲げる「吉澤織物」。
今回、荒井呉服店ではそんな吉澤織物に振袖の別誂を依頼。その制作の過程を紹介します。
2026年3月下旬 - 図案選定 -
まだ雪が残る十日町へ

上越新幹線・越後湯沢駅から上越方面に向かう「ほくほく線」に乗り十日町へ。
山々と雪景色を見ながらこの地域での染織の歴史に想いを巡らせます。



吉澤織物社屋の資料室に保管される膨大な資料の中から、今回制作を依頼する振袖のベースとする原寸図案・彩色指示書を選定。依頼する色柄のイメージは明確だったものの、図案を見始めるとイメージ以外の図案に目移りするのも事実で、選定にはかなりの時間を要しました。結果として、当初のイメージ通り「型友禅」をベースにした図案を選定し、ここから完成までの工程スケジュールを確認。
2026年4月下旬 - 制作工程進捗確認①
糊置 / 摺疋田

吉澤織物 染色工房棟にて。
「友禅」は下絵・糊置(糸目)・引染(地染)・水元など、基本的には分業制で行われる染色技法。京都では各工程毎に職人が独立した工房(作業場)を運営しそれぞれで仕事を請け負っているケースが主になりますが、吉澤織物では「一貫生産体制」を取っており、前述の工程のほぼ全てが吉澤織物 染色工房棟内で完結します。今回の制作進捗では板場に貼った白生地に型を用いて柄の輪郭に防染糊を置く「糊置」そして同時進行で行われていた「摺疋田」の工程も確認。


黄色の部分が防染糊。柄の中を彩色(友禅)した後に水元で洗い落とされ地色の輪郭が現れる。
<糊置・動画:荒井呉服店YouTubeチャンネル>
2026年5月下旬 - 制作工程進捗確認②
友禅 / 彩色

前回の進捗確認から約1ヶ月。その間、工房では地染めの工程を済ませており今回はいよいよ友禅(彩色)の工程の確認となります。
吉澤友禅の場合、地染めの後に友禅(柄の彩色)の順で工程を進めます。京友禅も同様の流れですが、加賀友禅はこの逆の順序(柄の彩色の後に地染め)で行います。
元々の図案・彩色資料から一部柄の大きさ、彩色を変更して臨んだ今回の工程。振袖の印象を大きく左右する色彩を整えるこの工程は最も重要と言えます。
様々な形状の筆・刷毛を用いて丁寧かつ迅速に染料を挿していく。一筆ごとに柄に作り手の想いが通っていくようで、この振袖はこうした手仕事を経て言葉では表現出来ない美しさを宿してゆきます。



<友禅 / 彩色・動画:荒井呉服店YouTubeチャンネル>
2026年6月下旬 - 制作工程進捗確認③
金彩

制作工程もいよいよ終盤。進捗確認で工房へ伺うのも今回が最終回となります。
十日町に向かう途中で見た谷川岳にはまだ僅かに残雪が。山々の雪解けの様子に3月下旬から始まった振袖の制作を追った日々が重なります。
友禅の工程を経て、ここから金彩、そして刺繍へ。京都ではこの工程を「化粧」と言ったりしますが、実に腑に落ちる表現です。
特殊な糊を吹き付けてそこに箔を貼る。またはメッシュを貼った筒に箔を入れ、刷毛で漉して振りかける。メッシュの密度によって漉される箔の細かさが変わる為、柄によって使い分ける。青いフィルムは糊と箔を防ぐ防染糊の役割を果たしています。






<金彩・動画:荒井呉服店YouTubeチャンネル>
金彩を終えた後、振袖は刺繍の工程へ。この振袖には「金駒刺繍」という柄を縁取る刺繍をほどこすわけですが、この刺繍に関してのみ別工房にて行なっています。完成まであと3週間ほどの時間を要します。
2026年7月下旬 - 完成
「生地は縮緬であること」「黒地であること」が今回の別誂えの要件とし、色褪せる事のない古典文様の伝統美と現代の美的感覚の両立を求めた末に巡り会ったのがこの図案でした。縮緬のシボの質感には上品さと可憐さを、黒地は人生の門出を踏み出す凛とした姿勢を表現しています。
純然たる古典文様を得意とする吉澤織物の作品群の中にあってモダンな雰囲気も醸し出す絶妙な柄構図。図案の段階では見定める事が出来なかった完成図も工程を追うごとに形となり、見事な仕上がりとなりました。吉澤織物と共に、細部にまでこだわりを巡らせた振袖をどうぞご覧ください。









吉澤織物 謹製 型手挿友禅振袖<桜尽くし>
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(税込・フルセット価格)
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