紀行
染色作家 小島貞二を訪ねて
荒井呉服店が定期的に取り組んでいる「型絵染」のご紹介。
型絵染とは、型紙を用いた染色技法の一つ。型紙を用いた染色は伊勢型紙を使った小紋や沖縄の紅型が代表的ですが、独創的な型染作家の芹沢銈介が人間国宝に認定される際に意匠創作から型紙彫り・染色までを自らが一貫して行う自身の技術様式に対して他の型染めを差別化をする為に「型絵染」という名称が考案されました。紅型とは特に似ている部分が多い型絵染ですが、琉球王国の王族・士族の衣装として染められていた紅型は伝統文様や吉祥図案を元にする事が多く、対して芹沢銈介を祖とする型絵染は伝統や様式に囚われない「自由な創作」によるモチーフというのが大きな違いと言えます。
作者の個性が色濃く表れる「型絵染」をコーディネートに取り入れる事の楽しさに魅了され始めた弊店の型絵染特集。今回ご協力頂いたのは国画会会員の染色作家・小島貞二さんです。
実父である小島悳次郎さんも型絵染作家で、貞二さんが生まれ育った東京蒲田のお住まい(兼 小島悳次郎工房)には芹沢銈介主宰の工房が隣接しており、お父様はもちろん芹沢工房の作り手たちの創作に対する情熱に幼い頃から触れて育ち染色の道を歩み始めたそうです。
そんな小島さんは型絵染をはじめ、木版(Block)更紗など、様々な技法を用いて創作を行う染色作家です。
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特集するにあたり、小島さんに幾つかの作品制作を依頼した際の話です。
これまでの作品アーカイブから現在も制作可能なものとそうでないものを確認しながら作品を選定させて頂き、その過程で様々な作品に触れ、制作のエピソードや染色の材料となる顔料、染める生地の話。そしてご自身が多大な影響を受けられたインドの話を伺ううちに、気が付けばどこか知らない、しかし不思議な懐かしさを感じる国へ旅に来たようなイメージが頭を過ぎる様になりました。
型紙のアーカイブ
過去に手掛けた作品
アーカイブファイルから制作候補を選定中
アーカイブファイル
なかなか目にする事がない最良質の麻布「奈良晒」
顔料①
顔料②
ご自身で彫られたBlock(木版)
小島さんがコレクションされているインドのターバン
極細の手紡ぎの木綿糸で織られ、染色は複雑な絞染など非常に手が込んでいる
小島さんが所蔵するインドの古布
木版などを使い、染料や顔料で染め、金彩銀彩が施されている
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制作依頼から数ヶ月が経った頃、小島さんから制作進捗の連絡を頂き、早速工房へ。
ちょうどこの日は白生地にBlockを捺す工程に取り掛かられるとの事で、作業を見学させて頂くことに。テンポ良く、そして粛々とBlockを捺していく。図案を元に捺しながらもバランスを調整して配置を変える。「Blockのサイズが大きいほど押す力と勢いが必要になる」と、小島さん。かつて蒲田にお住まいだった頃、自宅に隣接する芹沢工房から夜中にBlockを捺す音が響いてきた、と言います。芹沢銈介先生、そして父である小島悳次郎先生の下に集う若き染色家達の創作に対する熱意が伝わってくるエピソードです。
並べられたBlockはこれから使用するもの
いよいよBlockを捺す作業へ
大きめのBlockの中へ小さなBlockを重ねる
Blockも手のひらサイズにもなると捺す勢いと力が必要になる
作業は粛々と進んでいく
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その翌々週。更なる進捗の便りが。
幾つかの作品を同時進行で制作頂いており、今回はそれぞれの地色を染める為に行う防染の工程「糊伏」と柄に色を入れる「彩色」を拝見させて頂けることに。
Blockや型付けは意匠の骨組みと言えますが、彩色はそこに魂を込めるようなイメージ。作家の感性が如実に表れる重要な工程です。小島作品の彩色には「顔料」が使用されることが多い。インドやヨーロッパ各国の工芸美術品に精通する小島さんはそうした作品群からも得られる顔料の特性を熟知し自身の創作に生かす部分も多いとの事。小島さんが所蔵する工芸美術品をいくつか拝見させて頂いたのですが、顔料はその質感自体が「見える色」の要素でもある為、書籍や写真で「見た・得た」だけでは色の魅力の本質が理解出来ないという事をそれら作品を通して教えて頂きました。ネットでも様々な情報が得られる世の中ですが、「実物を見る」という事は本当に大切です。
防染糊を筒に入れていく
彩色をした部分に防染糊を置いていく こうした防染は友禅でも見られる工程
ムラが無いよう丁寧に防染糊を置いていく
染料を使った彩色
彩色した生地を裏から見る
赤の顔料 顔料は溶解しないので、時間が経つと水の下に顔料が沈澱してくる
顔料を使った彩色
色を重ね完成する本作は彩色と乾燥を繰り返す
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今回の特集に向けて制作頂きましたどの作品も小島さんの感性が煌めく仕上がり。
国内外の工芸美術品や染色技術に関する造詣、知見の広さとそれらに縛られる事のない「自由な創作」。自身の感性と創作意欲の赴くままに、迎合しない力強さが魅力となってそれぞれの作品に表れています。こうした「力のある作品」というものは、和装・着物においては着る人の内面を刺激し気持ちを高揚させてくれるという、とても豊な経験を与えてくれます。
本特集をご覧頂いた皆様、また実際に作品を手に取って頂いた皆様に染色作家 小島貞二さんの「力のある作品」の魅力と楽しみが伝わりますように。
店主荒井と小島貞二さん
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染色作家 小島貞二を訪ねて
Special Thanks:Teiji Kojima・Kaori Kojima・Ootakazu Corp
Photo・Text - Ryusuke Ishige
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