紀行

自分だけの一枚を作る「誂えのすゝめ」

誂えのすすめtop 2

好みを追求し辿り着く「誂え」の世界。


時にはお子様の健やかな成長を願う御祝着を、時にはご婚礼の記念の礼装着物を、、、

主に慶事の節目を彩る為に、他にはない一品を、自分だけの一着を、と御用命を賜る「誂え」の着物。

今回はそんな「誂え」を、実例を踏まえご紹介致します。


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今回の御用命は「古希のお祝いの会でお召しになるお着物」のご相談です。


最初のご相談から約6ヶ月後に古希の誕生日をお迎えになられるお客様。

ご自身にとっても古希は人生の大切な節目になられるという事で、ご主人やご友人が開催してくれる古希の祝宴で着る着物を誂えたいというものでした。


「誂え」を承る際にお客様からのご要望として、好きな(着たい)色、基調となる柄を伺えると実に進めやすくなります。もしお客様のイメージが漠然としている場合は、着物の柄の参考にして頂けるような図案や画集など参考となるような材料をご覧頂き、イメージをまとめて頂けるよう丁寧なコミュニケーションを図り、お客様のご要望を取りまとめます。


<お客様のご要望取りまとめ>

今回はお客様からはデザインについて具体的なご注文がございました。

それは「古希なので地色は紫が良い」「午年なので馬の柄が良い」というもの。

馬に関してはご自身が所有される名古屋帯に描かれた「馬」を忠実に再現してほしいというものでした。


<モデルとなる馬が描かれた染め帯。因みにこの帯はお客様がお母様から譲り受けたもの>


これだけお客様のイメージがまとまっていると、こちらからの提案も早々に組み上がります。

早速お客様に提案した内容は以下の通り

・お召しになるシチュエーションが「祝宴」という事で、誂える着物は華やかさのある<訪問着>がどうか。

・お客様は金沢に縁があるという点を考慮し、加賀友禅で制作するのはどうか。


因みに、京友禅での制作も一時検討しましたが、制作期間を考慮し加賀友禅を提案したという別の判断材料もありました。

お客様にはこの提案を快諾頂きました。


<制作依頼先の選定>

次は制作を依頼する作家さんの選定です。

お客様のご要望で制作依頼先のご要望がある場合もありますが、今回はそうしたご要望がなかった為、こちらで作家さんを選定させて頂きました。


今回の作家さん選定において考慮した点は以下通り

・忠実な作画を得意とする方。

・当店との信頼関係が築けている方。

・スケジュール的に制作が可能な方。


どちらも重要な条件です。

まず、こちらの制作要望(デザインなど)を受け入れて頂けるかが重要。これは依頼する側が作家さんの作風を理解していなければなりません。また要望を伝える・汲んで頂ける、そうしたやり取りを可能とする信頼関係も不可欠です。最後に、当然の事ながら納期を間に合わせて頂けるかスケジュールの確認が必須となります。

熟考検討の結果、今回は加賀友禅伝統工芸士"高田克也"氏に依頼をする事にしました。


<作家さんとの打ち合わせ、そして図案の作成>

作家さんとは制作依頼相談の段階でデザインの草案についての情報共有を行いますが、正式に発注の段階になると更に踏み込んだ内容を詰める打合せを行います。

今回の打ち合わせ内容は以下の通り

・お客様の寸法に沿った柄量について

・生地について

・地色について


実際に染める前にお客様には必ず草稿図案をご覧頂きます。草稿図案とは、紙に描いたデザイン画で、柄の大きさや配置、大まかな配色が確認出来る完成予想図のようなものです。この段階で制作(デザイン)が始まりますので、お客様の寸法やご要望の色などは必要不可欠な情報となります。

そうした情報を踏まえた打ち合わせを経て、高田氏に4パターンの草稿図案を描いて頂きました。

<初回提案の4パターン。地色、柄構図、それぞれにこちらの要望と作り手からの提案が盛り込まれたものとなっている>


誂えにおいて、作り手からの提案というのも実は大事な要素になっています。こうした提案がお客様の予想を超える完成度に繋がるケースは多々あります。こうした誂えにおいて我々呉服屋はその御用命・制作のプロデュース、いわゆる「染匠」の立ち位置となり、お客様と作り手を繋ぎ、様々なやり取りをベストな状態に調整する役割を担います。


<お客様にお選び頂いた草稿図案。お客様からはこの意匠に加え、地色のご要望を更に承る>


こうした草稿図案によってお客様にはより完成に近いイメージを捉えて頂き、そして場合によっては更なるご要望を頂戴します。今回は柄構図はご了承を頂き、地色に関しては更なる要望を頂きました。こうして「誂え」は高い完成度へと繋がっていきます。


<制作開始から進捗状況の確認>

柄構図がまとまり、いよいよ染色開始。

進行の途中、進捗状況の確認に加え、地色の調整確認の為に金沢にある高田氏の染工房へ伺いました。

工房には伸子で張られた生地が絵羽のように並べられています。作り手によって取り組み方は様々ですが、高田氏は細部を染めるにも全体が見えるこのような状況を作って取り組んでいらっしゃいます。


<左から上前の順で並べられた生地。生地は滋賀県長浜・吉正織物の最上級縮緬「変わり一越」を使用>

<原寸大の草稿>

<元となった名古屋帯の画像を幾度も確認する高田氏>

<友禅をする高田氏>

<度々手を止めて色合いを確認。この細やかな確認作業が絶妙な彩色を生み出している>

<細やかな筆使い>

<加賀友禅 伝統工芸士:高田克也氏>


<「派手になり過ぎない綺麗な紫」というのがお客様からのご要望。如何にお客様のニュアンスを汲めるか、感覚が要される>




こうして彩色が進みます。なお、制作工程に関しての余談ですが、地色から染める京友禅に対し、加賀友禅は柄を染めた後に地色を染めるという違いがあります。今回の御用命で最後まで調整を続けたのは紫の地色でしたが、高田氏も含めて熟考しご提案させて頂いた色味を快諾頂きました。柄の彩色を終えた後に地染めを行い、あとは完成を待つのみとなりました。


<完成>

金沢から届いた訪問着を早々に仕立て、いよいよお客様へ納品です。

仕上がった訪問着をご覧頂き、お客様からは要望プラスαの仕上がり、とご満足頂きました。









<加賀友禅伝統工芸士 高田克也 作 - 訪問着:白馬>


・・・


<荒井呉服店の誂え>

お客様のご要望を叶え美しい着姿を作るべくプラスαのご提案で更なる完成度を目指す。これが私どもが常々心掛けている「誂え」でございます。

色柄のご要望に加え、当然ご予算も御用命の重要な要素となりますので、全てにおいてお客様と丁寧なコミュニケーションを図り「誂え」を承らせて頂きます。


<お誂えのご予算と納期について>

訪問着の場合

予算:1,000,000円(税込・仕立て代込み)

納期:最短6ヶ月

*ご要望に沿って調整対応致します。


「誂えのすゝめ」荒井呉服店

Special Thanks for 高田克也


Photo&Text by Ryusuke Ishige






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